プラントの全ユーティリティの源泉となる「工業用水」は、純水や冷却水の母体となる重要インフラです。
本記事では、河川や広域水道を水源とする取水・ろ過プロセスの設計思想と、JIS G 3443に基づく大口径配管の施工管理を詳述します。
季節変動に伴う濁度管理や、埋設配管の外面腐食対策(電食防止)、長年使用した配管のピグ洗浄といったメンテナンス実務まで、巨大インフラの信頼性確保を深掘りします。
目次
プラントの「血液量」を支える
今回からは「水」のお話です。 製油所や化学プラントにおいて、工業用水(工水)は単なる水ではありません。
ボイラー給水の原料となり、冷却塔(クーリングタワー)の補給水となり、時には消火用水として命を守る。いわばプラントの「血液そのもの」です。
空気は漏れても(コストは痛いですが)即座に爆発することは稀です。しかし、大口径の工水配管が破裂すれば、数千トンの水が現場を水没させ、全プラント緊急停止(ESD)という悪夢を招きます。
今回は、そんな巨大インフラの設計・施工・保全について、少し泥臭い話をさせていただきます。
工業用水の設計(Design):水源とろ過の戦い
工業用水の設計は、蛇口をひねれば水が出る家庭用とは次元が異なります。まず戦うべき相手は「自然」です。
水源リスクと濁度管理
多くのプラントは、一級河川からの取水や、工業用水道事業団からの供給を受けています。ここで設計上の最大の懸念事項となるのが「濁度(Turbidity)」です。
平時は清澄でも、台風シーズンや融雪期には、濁度が跳ね上がります。設計段階では、過去数十年の水質データを基に、最大濁度を想定した凝集沈殿槽と砂ろ過設備のキャパシティを決定する必要があります。
ろ過プロセスの冗長性
ろ過塔(サンドフィルター)の設計では、処理能力だけでなく「逆洗(バックウォッシュ)」のサイクルを計算に入れます。
例えば、4塔構成にする場合、1塔が逆洗中でも残りの3塔で最大負荷(ピークロード)を捌ける設計にするのがセオリーです。 また、近年はクリプトスポリジウム等の対策も踏まえ、JWWA(日本水道協会規格)や厚労省の指針に準じた、より目の細かいろ過材や、膜ろ過(MF/UF)の導入検討も増えていますが、大量消費する製油所では、依然として堅牢な砂ろ過が主役です。
※逆洗(ぎゃくせん)
ろ過装置やフィルターに蓄積した異物・汚れを、通常とは逆方向に液体(または気体)を流すことで除去し、ろ材を洗浄・再生する操作のことです。活性炭吸着や砂ろ過設備にて、詰まりによる能力低下を防ぎ、装置の寿命を延ばす重要なメンテナンス工程です。
※クリプトスポリジウム
塩素が効かない寄生虫で大きさは4〜6μm(マイクロメートル)程度です。目には見えませんが、自然界(河川や家畜の糞便など)に広く存在しています。
受水槽のバッファ設計
「外部からの供給が止まったらどうするか」。 この問いに対し、受水槽(ローウォータータンク)の容量は、最低でも数時間、できれば半日分のプラント操業を維持できる容量(数千トン〜数万トン)を確保します。これは、消防法で定める消火用水の確保ともリンクする重要な設計要件です。
大口径配管の施工(Construction):JIS G 3443の世界
工水配管は、そのサイズゆえに「埋設」が基本です。ここで登場するのが、土木と機械の狭間にある独特の規格です。
管種の選定:STW(水輸送用塗覆装鋼管)
プラント内の一般配管はSGPやSTPGを使いますが、口径が400Aや1000Aを超える工水本管には、JIS G 3443(水輸送用塗覆装鋼管)、通称「STW」が採用されます。
この配管の特徴は、内面と外面の厳重なコーティングです。
- 内面: エポキシ樹脂塗装やモルタルライニングが施され、錆こぶ(Tubercle)の発生を防ぎます。
- 外面: 土壌腐食を防ぐため、かつてはコールタールエナメルが主流でしたが、現在はポリエチレン被覆やポリウレタン被覆が一般的です。
埋設施工の急所:スラスト対策
施工監督として絶対に知っておくべきは、スラストブロック(Thrust Block)の重要性です。 水が曲がり角(エルボ)や分岐(チーズ)を通るとき、配管には強烈な「不平均力(スラスト力)」が働きます。
大口径配管で0.5MPa程度の圧力でも、その力は数トンに及びます。 これを支えるため、曲がり部にコンクリートの塊(ブロック)を打設し、土壌の支持力で受け止めます。
この施工が甘いと、通水テストをした瞬間に継手が抜けたり、地盤が隆起したりする大事故になります。
溶接と品質管理
STWの現地溶接は、多くの場合、管内に入って内面塗装の補修を行う必要があります。「人が入れる配管」ならではの苦労ですが、ここのピンホール一つが、数十年後の漏水事故につながります。
内面補修後のホリデーディテクター(ピンホール探知機)による検査は、絶対に省略してはいけません。
メンテナンス(Maintenance):見えない血管を守る
埋まってしまった配管は、簡単には掘り返せません。だからこそ、高度な診断と予防保全が必要です。
ピグ洗浄(Pigging)による血管掃除
長年使用した工水配管の内面には、スライムや微細な土砂が付着し、流路抵抗が増大します。これを解消するのが「ピグ洗浄」です。
配管内にポリウレタン製の弾性体(ピグ)を挿入し、水圧で押し流すことで、内部の汚れを物理的に掻き出します。 定検工事(SDM)の目玉作業となることもありますが、設計段階でピグ発射機(ランチャー)と到達機(レシーバー)を設置できるスペースやフランジを用意しておかないと、実施は困難です。
「将来ピグを通すかもしれない」という想像力が、設計者には求められます。
外面腐食対策:電食との戦い
埋設配管の最大の敵は「腐食」です。特に、近くに鉄道や大型の電気設備がある場合、迷走電流による「電食(Stray Current Corrosion)」が発生します。 これを防ぐため、電気防食(Cathodic Protection)を施します。
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流電陽極方式: マグネシウムや亜鉛の塊(犠牲陽極)を配管と電線で繋ぎ、配管の身代わりとして腐食させる方法。
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外部電源方式: 整流器を使って強制的に防食電流を流す方法。
保全担当者は、定期的にテストターミナルボックス(TB)で「管対地電位」を測定し、防食状態が維持されているか(一般的に-850mV vs CSE 以下など)を監視します。陽極が消耗していれば、掘削して交換する判断も必要です。
漏水調査のデジタル化
広大な敷地のどこかで漏れている...。これを見つけるのは至難の業です。 かつては「音聴棒」で夜中に歩き回る職人技でしたが、最近は相関式漏水探知機を用います。
2点間のセンサーで漏水音を拾い、その到達時間差から漏洩位置をピンポイントで特定する技術です。 SDM期間中に主要バルブを閉め切り、エリアごとの圧降下テストを行うのも、漏洩管理の定石です。
水は、ただ流れているのではない
工水配管は、普段は足元の土の中で、誰の目にも触れずに黙々と大量の水を運び続けています。 しかし、その一本一本には、土圧に耐えるための強度計算、腐食と戦うための電気化学的アプローチ、そして清浄な水を届けるためのろ過技術が詰め込まれています。
蛇口をひねれば水が出る。その「当たり前」の裏側にある、巨大なインフラの重みと、それを守る技術者たちの矜持。 次に構内道路を歩くとき、アスファルトの下を流れる何万トンもの水の鼓動を想像してみてください。 皆さんの現場が、水漏れ一つなく、安定して稼働することを願っております。