誰も教えない話

JPI規格とボルト選定:SS400からのステップアップ

SS400からJPI規格ボルトへの格上げは、単なるコスト増ではなく、プラントの長寿命化と購買単価抑制を両立する戦略的投資です。

JPI-7S-15が定める温度・圧力の境界線を正しく理解し、規格品の一括発注(バルク発注)にシフトすることで、現場のリスクと予備品コストを同時に削減できます。

「安いボルト」を探すのをやめ、世界標準の「最適な規格」を運用することが、勝つ購買の鉄則です。

「SS400で十分」が通用しなくなる境界線

建設現場の延長で、プラント配管にもSS400(一般構造用圧延鋼材)のボルトを使い続けていませんか?「今までこれで漏れたことはない」という経験則は、プラントにおいてはリスクでしかありません。

JPI規格(日本石油連盟規格)——それは、世界の石油・化学プラントが認めた「安全の共通言語」です。

なぜ、私たちがSS400からの卒業を急ぐ必要があるのか。それは、プラント配管が、建設現場とは比較にならないほどの「熱膨張」と「収縮」を繰り返す過酷な環境だからです。

SS400はあくまで「一般構造用」。つまり、動かない建物を支えるための材料です。これを常に熱や振動にさらされるプラント配管に流用することは、いわば「街乗りの軽自動車でF1レースに出場する」ようなもの。

材質の格上げはコストアップではありません。予期せぬリーク(漏洩)による数千万円規模の損害を防ぐための、最も効率的な「リスクヘッジという名の投資」なのです。

PI-7S-15が定めるボルト選定の「黄金律」

石油連盟規格「JPI-7S-15」は、米国ASME規格をベースに日本の実務に即して設計された、非常に論理的な基準です。ここで、購買マネージャーや技術リーダーが頭に叩き込んでおくべき「数値の境界線」を整理します。

 SS400(強度区分4.6相当)の限界

JPI規格において、SS400の使用が推奨されない、あるいは制限されるケースは明確です。

  1. 圧力区分: Class 150(約2.0 MPa)を超える環境。

  2. 温度範囲: マイナス20度 から 200度 の範囲を外れる環境。

もし、貴社のラインがこの範囲を1℃でも、あるいは0.1 MPaでも超えているなら、SS400の使用は「規格外の判断」となります。

 ステップアップの具体的な指標

JPI規格に基づく指標は以下の通りです。

  • 中圧・中温域(S20C、S25C等): 強度区分5.6から8.8相当。炭素鋼としての粘り強さと強度のバランスに優れ、一般的なプロセスラインの主軸となります。

  • 高圧・高温域(SNB7等): 合金鋼ボルト。300度を超える高温域でも強度が低下しにくく、熱サイクルによる軸力低下を防ぎます。

なぜこれらに切り替えるのか?それはSS400の「伸びやすさ(耐力の低さ)」が、熱変化によってボルトを恒久的に伸ばしきってしまい、シール力を失わせるからです。

「規格品」vs「特注品」の損得勘定

「より良い材質(S25C等)にすると高くなる」という思い込み、今日で捨ててください。戦略的な購買を行えば、高品質なボルトの方が結果として安上がりになります。

 大量発注の魔法

SS400の変則的なサイズ(中途半端な長さなど)を、現場の要求に合わせて都度小出しに買うのが最も高い買い方です。

一方、JPI規格に完全に準拠したS25CやSNB7を「標準在庫」として定義し、バルク(一括)発注してみてください。JPI規格品は国内・海外を問わず流通量が圧倒的に多いため、一括発注によるボリュームディスカウントが効きやすく、SS400の小口買いよりも1本当たりの単価を下げることが可能です。

 特注品の罠を排除する

設計リーダーの皆さん、図面に「中途半端な長さ」のボルトを記載していませんか? JPI規格の標準サイズから外れた長さのボルトは、メーカーにとって「特注品」扱いとなります。

特注品は製作納期がかかるだけでなく、単価が規格品の2倍から3倍に跳ね上がります。 「規格に設計を合わせる」こと。これが、工期遅延による機会損失を防ぎ、予備品コストを最小化する「勝つ購買」の鉄則です。

ミルシートで「S25C」の素性を見極める

最後に、格上げした材質の品質をどう担保するか。それは、ミルシート(検査証明書)の読み方を変えることにあります。SS400の時とは見るべきポイントが変わります。

 炭素量(C)の管理

例えばS25Cであれば、炭素含有量が「0.22パーセントから0.28パーセント」の範囲にあるかをチェックしてください。

このわずかな炭素量の管理こそが、締め付け時の安定した軸力を生み出し、作業者による締め付け誤差を最小限に抑えます。

熱処理履歴の確認

SS400にはない、高品質ボルトの証が「熱処理」です。

ミルシートに「焼きなまし」や「焼きならし」の履歴が適切に記載されているか。これこそが、過酷なプラント環境でも「折れない・伸びすぎない」品質の裏付けとなります。

「最適な規格」を正しく運用すること。それが、貴社のプラントを最も安全に、そして最も安上がりに管理する唯一の道です。