全ての配管に高強度ボルトを採用するのは「過剰スペック」による利益の損失であり、JIS B 2220が定める低圧域(10K以下)では強度区分4.8の並ボルトで物理的・法的に十分対応可能です。
材質を「適正化」することで、ボルト単価を最大80パーセント削減できる試算もあり、これは購買部門が算出できる極めて具体的な「技術的成果」となります。
「なんでも高強度」から「根拠のある適正化」へシフトするための、リスク回避チェックリストとコスト削減ロジックをマスターしましょう。
目次
「最強が最良」ではない。購買が見るべき過剰スペックの罠
多くの現場では、トラブルを恐れるあまり「ボルトは一番強い10.9区分(高力ボルト)か、SNB7(合金鋼)にしておけば安心だ」という風潮があります。確かに、強ければ壊れるリスクは減ります。しかし、購買マネージャーの視点に立てば、これは「捨て金」を払っているのと同じです。
プラントや設備の配管には、数千本のボルトが使われています。その全てを最高グレードにする必要は、物理学の視点からも、JIS規格の視点からもありません。
「なぜこの場所には4.8区分で十分なのか?」 この問いに論理的に答えられる現場担当者は、設計部門からも「技術がわかるプロ」として一目置かれる存在になります。
まずは、私たちが「並ボルト」と呼んで少し軽視しがちな「強度区分4.8」の本当の実力を再確認しましょう。
テクニカル解説:強度区分4.8の「数字」が示す真実
ボルトの頭に刻印された「4.8」。この数字は単なる型番ではなく、そのボルトの「筋肉量」と「粘り強さ」を示しています。
4.8の数字を分解する
左の「4」: 引張強さ(ちぎれる時の強さ)が 400 N/mm2 であることを示します。
右の「8」: 降伏比(元に戻らなくなる限界点)が引張強さの80パーセントであることを示します。つまり、400 x 0.8 = 320 N/mm2 が、4.8区分ボルトが「バネ」として機能できる限界点(降伏点)です。
ここで注目すべきは、前回解説した「SS400(4.6区分)」との違いです。
4.6区分(SS400相当):降伏点 240 N/mm2
4.8区分:降伏点 320 N/mm2
実は、並ボルトの中でも「4.8」は、SS400相当品よりも約33パーセントも「伸びにくい(強い)」優秀なスペックを持っているのです。
JIS B 2220(鋼製管フランジ)の基準
日本の配管基準であるJIS B 2220では、フランジの圧力区分(5K、10K、20Kなど)ごとに推奨されるボルトの考え方があります。
特に「5K」や「10K」といった低圧・中圧域のフランジにおいて、流体が水や空気などの非危険体であれば、4.8区分ボルトの強度は、計算上十分すぎるほどの安全率を確保できています。
「適正化」によるコスト削減試算
では、具体的にどれくらいのインパクトがあるのか。高強度ボルト(SNB7や強度区分10.9)を、4.8区分の並ボルトへスペックダウン(適正化)した場合の試算例を見てみましょう。
削減額の試算例(M16 x 70mmボルト 1,000本の場合)
ケースA(現状):高強度合金鋼(SNB7) 単価:300円 x 1,000本 = 300,000円
ケースB(適正化):強度区分4.8(ユニクロメッキ) 単価:60円 x 1,000本 = 60,000円
→ 削減額:240,000円(80パーセントのコストダウン)
これが1万本単位のプラント建設や、年間を通した修繕計画であれば、削減額は数百万円に達します。 「高いものを安く叩く」のではなく、「不要なオーバースペックを適正な規格に戻す」こと。これこそが、技術的根拠に基づいた、誰にも文句を言わせない「知的なコスト削減」です。
4.8区分で「事足りる」ケースリスト
以下の条件を満たす場合、高価なボルトは不要です。
圧力区分: JIS 5K または 10K フランジ。
流体種類: 工業用水、空気、排水などの非危険物。
温度条件: 0度から100度程度の常温域(熱による伸び縮みが少ない)。
設置環境: 激しい振動や衝撃荷重がかからない場所。
現場監督が持つべき「リスク回避チェックリスト」
もちろん、むやみなスペックダウンは事故に繋がります。「技術のわかる監督」として、最後にこのチェックリストを使ってリスクを管理してください。
リスク回避のポイント
表面処理の指定: 4.8区分は鉄製が多いため、錆に注意が必要です。「ユニクロメッキ」や「クロメート」など、設置環境に応じた防錆処理を指定しましょう。
増し締めの管理: 4.8区分は10.9区分に比べて伸びやすい性質は持っています。初期の締め付け後、しばらくしてからの点検(増し締め)が必要な箇所かどうか、保全リーダーと合意形成をしておきましょう。
「SS400(4.6)」より少し強く、でも「高力ボルト(10.9)」より圧倒的に安い。 この絶妙なポジションにいる「強度区分4.8」を使いこなせるようになれば、あなたはもう単なる現場担当ではありません。