
現場で「たかがボルト」なんて言葉を耳にしたことはありませんか?もしそんな風に思っている人がいたら、今日からその考えを改めてください。
プラント内を走る無数の配管、その接続部であるフランジを支えているのはボルトとナットです。
もしボルトの選定を誤れば、高圧の流体が漏れ出し、重大な災害につながる恐れがあります。私たちが扱うプラントは過酷な条件ばかりです。
だからこそ、なぜその材質が選ばれているのか、その「根拠」を知ることが、プロのエンジニアへの第一歩になります。
目次
パイピングスペック(配管仕様書)の読み方と役割
プラントの設計図面を見ると、必ず「パイピングスペック(配管仕様書)」という指示があります。これは、その配管が「どんな流体を、どんな温度・圧力で流すか」によって、使用する管、バルブ、そしてボルトの材質を細かく規定した「現場のルールブック」です。
プラントの標準仕様では、このスペックに基づいて資材を調達します。ここで重要になるのが規格の存在です。
規格の相関:JIS、JPI、ASTM規格の関係性
日本の産業規格である「JIS」はもちろん大切ですが、石油・化学プラントの世界では、米国石油学会を基にした「JPI」や、米国試験材料協会の「ASTM」規格がデファクトスタンダード(事実上の標準)となっています。
これは、プラント技術の多くが米国から導入された歴史背景があるためです。ボルトの材質を語る際、「B7」や「B8」といった呼び名が出てくるのは、すべてASTM規格に基づいています。
材質選定ガイド:圧力・温度・流体別の代表的な組み合わせ
現場でよく使われるボルトとナットの組み合わせを、わかりやすく表にまとめました。これを知っておくだけで、現場での判断スピードが格段に上がります。
| 系統・用途 | ボルト材質 (ASTM) | ナット材質 (ASTM) | 主な特徴・用途 |
| 炭素鋼系統 (JPI 150/300) | A193 Gr.B7 | A194 Gr.2H | 最も一般的な高張力ボルト。常温〜中温用。 |
| 高温・高圧系統 | A193 Gr.B16 | A194 Gr.4 または 7 | B7より耐熱性が高く、クリープ特性に優れる。 |
| 低温系統 | A320 Gr.L7 | A194 Gr.4 または 7 | 低温時でも脆(もろ)くならない「靭性」を持つ。 |
| ステンレス鋼系統 | A193 Gr.B8 / B8M | A194 Gr.8 / 8M | 耐食性が高い。腐食性流体やクリーンな環境用。 |
なぜその組み合わせ?選定根拠を深掘りする
ここで「なぜ使い分けるのか」という一歩踏み込んだ話をしましょう。
例えば、なぜ高温部ではB7ではなくB16を使うのか。
B7も強い材質ですが、400℃を超えるような高温下では、時間が経つにつれて徐々に変形してしまう「クリープ現象」が起きやすくなります。B16は、バナジウムなどを添加することで、この高温時の強度を維持できるように設計されているのです。
また、低温環境でL7を使う理由。
金属は冷やされると、ガラスのようにパリンと割れやすくなる「低温脆性(ていおんぜいせい)」という性質を持っています。L7はマイナス100℃近い環境でも粘り強さを保てるよう、厳しい衝撃試験(シャルピー試験)をクリアしたエリートなのです。
現場での注意点:締め付け管理と「焼き付き」の恐怖
材質を選んだら、次は現場での扱い方です。特に注意が必要なのがステンレス製のボルト(B8/B8Mなど)です。
ステンレスは非常に錆びにくい優れた材質ですが、一方で「焼き付き(かじり)」を起こしやすいという弱点があります。
締め付けの摩擦熱でボルトとナットが分子レベルで溶着し、二度と回らなくなってしまうのです。これを防ぐには、適切な潤滑剤(焼付防止剤)の使用が不可欠です。
また、ボルトの長さ選定も重要です。ナットからボルトのネジ山が「2〜3山」出ているのが理想的な状態です。
短すぎれば強度が不足し、長すぎれば腐食のリスクが高まります。見た目の美しさだけでなく、機能的な裏付けがあるのです。
安全を守る「たかがボルト、されどボルト」の精神
いかがでしたか?一つひとつのボルトに、それを選んだ理由があることが伝わったでしょうか。
プラントエンジニアリングの世界では、こうした小さな部品の知識の積み重ねが、最終的に巨大な設備の安全を支えます。
現場でボルトを手にしたとき、「これはB7だからこの環境に合っているな」と思えるようになれば、あなたはもう立派な技術者の仲間入りです。