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JIS/ASTM/JPI規格の使い分け術:バルブ材質選定の最適解

なぜ私たちは「世界標準」で語るのか

現場で配管図面(P&ID)を見ていると、「なぜ日本のプラントなのにJIS規格(日本産業規格)だけでなく、ASTMやASMEといった海外の規格が飛び交っているのだろう?」と疑問に思ったことはありませんか。

特に配管材料やバルブの仕様書において、A105やA193といった記号を見ない日はありませんよね。

今日は、私たち石油・化学プラントのエンジニアにとって「共通言語」とも言えるバルブの規格と材質選定について、少し掘り下げてお話ししたいと思います。これは単なるカタログスペックの読み方ではなく、プラントの安全と信頼性を守るための「哲学」の話です。

バルブ選定の基本:圧力と温度がすべてを決める

まず、バルブ選定において最も重要な指標は何か。それは「流体の圧力」と「温度」です。この二つの組み合わせによって、バルブが耐えうる限界、すなわち「圧力-温度基準(P-Tレーティング)」が決まります。

JISとJPI/ASMEの決定的な違い

私たちが普段目にする「JIS 10K」や「JIS 20K」という呼び方は、非常に馴染み深いものです。しかし、我々のような大規模プラント、特に高温高圧や危険物を扱う現場では、世界標準であるASME(米国機械学会)やJPI(日本石油学会)の規格、例えば「クラス150」「クラス300」といった呼び方が主流となります。

なぜか。それは、石油・ガス産業がグローバルな産業であり、設計思想がASME B16.34という世界基準に基づいているからです。この規格は、材料の物理的な強度と温度特性を厳密に体系化しており、極めて高い信頼性が担保されています。

900lbと1500lb:数字の裏にある物理的な壁

例えば、皆さんがよく検索するキーワードに「900lb 1500lb 違い」というものがあります。このクラス(lb)が上がると、バルブはどう変わるのでしょうか。

単に「耐圧が上がる」だけではありません。物理的な構造が劇的に変化します。 クラス900とクラス1500を比べると、まずフランジの厚みが全く異なります。そして、それを締め付けるボルトの本数やボルトの太さ(径)も増大します。

これは、内部の高圧流体がフランジを押し広げようとする巨大な力に抗うためです。ASME B16.34では、この圧力定格ごとに必要な肉厚やボルト断面積が緻密に計算されています。つまり、クラスの選定を間違えるということは、圧力を抑え込むための「物理的な腕力」が足りなくなることを意味するのです。

材質選定の要諦:炭素鋼からステンレス鋼への分岐点

次に、材質の話をしましょう。基本となるのは炭素鋼(A105など)ですが、これをいつ、どのような理由でステンレス鋼(SUS316など)にアップグレードするのか。ここがエンジニアの腕の見せ所です。

温度の壁:-29℃の境界線

炭素鋼であるA105は、非常に優秀でコストパフォーマンスに優れた材料です。しかし、弱点があります。それは低温脆性(ていおんぜいせい)です。一般的に、炭素鋼は-29℃を下回ると急激に粘り強さを失い、ガラスのように割れやすくなります。

そのため、寒冷地での操業や、LPGなどの液化ガスを扱うラインで流体温度が-29℃を下回る可能性がある場合、私たちは迷わず低温用炭素鋼や、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS316など)を選定します。特にSUS316は、極低温であるマイナス196度でも優れた靭性を維持できるため、LNG(液化天然ガス)設備などでも重宝されます。

国内大手プラント社の事例に学ぶ

ここで、過去に国内大手プラント社で起きたとされる、ある事例を抽象化してお話ししましょう。 ある増設工事で、コストダウンを優先するあまり、本来ステンレス鋼を採用すべきラインに、仕様書上のギリギリを攻めて炭素鋼を選定しようとしたケースがありました。

設計データ上は常温のラインでしたが、スタートアップ時のパージ操作や、異常時の減圧沸騰によって、局所的にマイナス数十度まで下がるリスクが見落とされていたのです。

もしそのまま施工されていたらどうなっていたか。配管やバルブが「低温割れ」を起こし、可燃性ガスが噴出する大事故に繋がっていたかもしれません。

私たちは「定常運転時」だけでなく、「スタートアップ」「シャットダウン」「緊急放出時」のすべてのシナリオにおける圧力・温度変化を想像し、材質を選ばなければなりません。これが、生き字引と呼ばれるベテランたちが常に口を酸っぱくして言う「想像力」の大切さです。

スペックの向こう側を見る

バルブ一つ選ぶにも、そこには膨大な規格の歴史と、過去の失敗から学んだ教訓が詰まっています。

ASTMやASMEといった規格は、単なるアルファベットの羅列ではありません。先人たちが積み上げてきた安全へのマイルストーンです。 「カタログに書いてあるから」ではなく、「なぜこの圧力で、この材質なのか」を常に問いかけてください。ボルト一本の太さ、フランジ一枚の厚みに込められた設計者の意図を読み解くこと。それが、プラントの信頼性を守り、ひいては自分たちの仲間を守ることにつながります。