皆さんが設計や保全の業務に携わる際、図面に当たり前のように記載されている「フランジのクラス」。
実はこれが、プラント全体の安全性とコストを左右する、非常に重要な「骨格」であることを意識したことはありますか?
配管フランジは、パイプとパイプ、あるいはパイプと機器を繋ぐ、配管系の強度を決定する主要コンポーネントです。
もしこの「クラス(Rating)」の選択を誤れば、大規模な漏洩事故を引き起こすリスクがある一方で、過剰なスペックを選べば、数キロメートルに及ぶ配管全体のコストを不必要に跳ね上げてしまいます。
「カタログに載っているから」という理由だけで選ぶのではなく、その数値の裏にある設計思想を理解すること。それが、プロのエンジニアへの第一歩です。規格の体系と「P-Tレーティング」の本質についてお話ししましょう。
目次
世界標準と国内標準:JPI、ASME、JISの使い分け
まず整理しておきたいのが、規格の種類です。日本の石油プラント業界で最も一般的に使われているのはJPI規格(JPI-7S-15)でしょう。
なぜJISではなくJPI/ASMEなのか
一般産業用ではJISフランジ(5K, 10K, 20K等)も使われますが、過酷な条件下のプラントでは、JPIや米国規格のASME B16.5が主流です。その理由は、これらが石油・ガス業界の過酷な運転環境(高温・高圧)を前提に設計されているからです。
ASME B16.5: 世界標準の米国規格。輸出案件や海外ライセンサーの設計で必須。
JPI-7S-15: 日本石油学会が定めた規格。内容はほぼASMEを踏襲しており、国内プラントのデファクトスタンダード。
JIS: 水道や空気などのユーティリティ系には使われますが、プロセス配管ではJPI/ASMEクラス(150, 300, 600等)が基本となります。
JPIとASMEは互換性が高く、材料の許容応力の考え方も共通しているため、まずはこの「クラス」の概念をマスターすることが不可欠です。
P-Tレーティング(圧力-温度基準)の基礎知識
フランジ選定で最も重要な概念がP-Tレーティングです。これは「Pressure-Temperature Rating」の略で、文字通り「その温度で、どこまでの圧力に耐えられるか」を示した基準表です。
温度が上がれば、許容圧力は下がる
これは物理的な大原則です。金属材料は温度が上がると強度が低下します。そのため、同じ「クラス300」のフランジであっても、常温(38℃以下)で耐えられる圧力と、400℃の高温下で耐えられる圧力は全く異なります。
材料グループによる違い
もう一つの注意点は、材料の種類によってレーティングが分かれていることです。
炭素鋼(ASTM A105など): 安価で一般的ですが、高温域では強度が落ちやすく、クリープ現象にも注意が必要。
ステンレス鋼(ASTM A182 F316など): 耐食性に優れ、高温域でも炭素鋼より高い圧力を保持できる場合があります。
設計時には必ず、使用する材料グループに対応したP-Tレーティング表を参照しなければなりません。
「クラス300だから大丈夫」と油断せず、必ず「その材料で、設計温度における上限圧力はいくらか」を確認する癖をつけてください。
異常時の圧力上昇と設計マージンの考え方
さて、ここからが現場の知恵、いわゆる石油メジャーの標準仕様に基づいた実務的な視点です。
教科書通りの設計では、通常運転時の圧力(Normal Operating Pressure)をカバーしていれば良いと考えがちですが、実務ではそれでは不十分です。私たちは常に、「デザイン条件(Design Conditions)」にマージンを持たせます。
アップセット状態(異常昇圧時)の考慮
装置のトラブルや誤操作によって圧力が一時的に上昇する「アップセット状態」を想定しなければなりません。例えば、ポンプの締切圧力や、下流のバルブが閉塞した際の最大到達圧力を考慮し、安全弁(PSV)の設定圧力に対して十分なマージンを持つクラスを選定します。
サージ圧(水撃)と火災対策
液体の流れが急激に止まることで発生するサージ圧や、万が一の火災時に周辺温度が上昇し、フランジ強度が急激に低下するリスクも考慮します。高度な社内設計基準では、単なる運転圧力の1.1倍といった単純な計算だけでなく、システムの特性に応じた余裕度を求めています。
ギリギリの選定は、後々の改造や条件変更の際に自分の首を絞めることになる。わずかなコスト差であれば、ワンランク上のクラスを選んでおくのが、将来の安全を買う投資になることもあるのです。
「呼び圧力」の正しい解釈と選定の落とし穴
若手が陥りやすいミスに、規格の安易な読み替えがあります。
クラス150は20K相当?
よく「クラス150はJIS 10K〜20Kの間くらいだ」と覚える人がいますが、これは危険です。常温付近では確かに2.0MPa程度の耐圧がありますが、温度が上がると急激に許容圧力が下がります。
JPIのクラスとJISのK表示は、設計思想そのものが異なるため、安易な変換は禁物です。
高圧域(クラス600以上)の厳しさ
クラス600や900といった高圧域になると、フランジの厚みやボルト本数が増え、締結管理が非常にシビアになります。
ボルトの締結力が不足すれば漏れ、締めすぎればフランジが歪む。高圧になるほど、圧力容器としての剛性と、ガスケットを潰し切る力のバランスを取るのが難しくなるのです。
信頼性を担保する最初の一歩
今回は、配管フランジ選定の土台となる規格体系とP-Tレーティングについて解説しました。
石油プラントではJPIやASME規格が標準である。温度が上がれば耐圧性能は下がるため、必ず材料ごとのレーティング表を確認する。通常運転時だけでなく、異常昇圧や将来の拡張性を考慮した設計マージンを持つ。
規格の数値をただ鵜呑みにするのではなく、流体の特性やプラントの置かれた状況を想像しながら選定する。その姿勢こそが、信頼されるエンジニアへの近道です。