現場を疲弊させる「バラ発注」という見えないコスト
プラントや建設現場において、10Aから50Aといった小口径フランジは、数えきれないほどの箇所で使用されています。これらに付随するボルトやナットを、あなたはどのように手配しているでしょうか。「ボルト100本、ナット100個」というように、部品ごとにバラバラに発注してはいないでしょうか。
実は、この「バラ発注」こそが、現場と購買の双方を疲弊させる元凶です。バラで発注された部品は、サプライヤーの倉庫で一つひとつピッキングされ、別々の袋に入れられ、段ボールに詰められて届きます。
この「袋詰め」や「ピッキング」という作業一つひとつに人件費、つまり物流費が乗っているのです。
さらに深刻なのは、現場に届いてからの作業です。段ボールから大量の小袋を取り出し、納品書と照らし合わせてボルトの本数を数え、ナットの個数を確認する。
この「検収作業」に、一体どれほどの時間が奪われているでしょうか。小口径になればなるほど、部品の数は膨大になり、数え間違いや紛失のリスクも高まります。
現場監督が、暗い資材置場で震えながらボルトを数えている。そんな光景は、もう終わりにしなければなりません。
なぜ「セット化」が技術者の正解なのか
ここで、技術的な視点から「ボルト・ナットのセット化」の妥当性を考えてみましょう。ボルトとナットには、JIS規格(日本産業規格)に基づいた適切な組み合わせが存在します。
例えば、一般構造用圧延鋼材(SS400相当)のボルトを使用する場合、それに対応するナットの強度区分は、JIS B 1052などの規定により、ボルトと同等かそれ以上でなければなりません。
これをバラバラに発注していると、現場で「強度の低いナットを、強いボルトに組み合わせてしまう」といったヒューマンエラーが起こる隙を与えてしまいます。
パック発注は、あらかじめ規格に適合した「正しい組み合わせ」を工場側でセットにする手法です。これにより、現場での組み合わせミスを物理的に排除できます。
技術を理解しているプロであれば、「現場の注意力」に頼るのではなく、「供給の仕組み」で安全を担保することを考えるべきです。
また、10A〜50Aの小口径フランジは、使用されるボルトの本数が決まっています。
例えば、ある規格のフランジには4本のボルト・ナットセットが必要だと決まっていれば、最初から「4セット入りパック」として納入させるのが合理的です。
これにより、資材の無駄がなくなり、現場への配布もパック単位で完結するため、紛失リスクを最小限に抑えることができるのです。
検収工数を50%削減する「物流DX」のシナリオ
では、具体的に「セット発注」がどれほどのインパクトを経営に与えるのか、購買部門を説得するための具体的な改善ロジックを組み立ててみましょう。
これは、ある先進的な現場で導入された「調達DX」の事例をベースにしたシナリオです。
これまでのバラ発注では、検収時に「品名確認」「数量カウント」「ボルトとナットの整合性チェック」という3つのステップが必要でした。1つの現場で1000セットのボルトを扱う場合、この検収作業には熟練の作業員でも丸一日近い工数がかかっていました。
これを「4セット入りQRコード付きパック」に変更します。改善後のフローはこうなります。
まず、サプライヤー側で、フランジ1箇所分(ボルト4本、ナット4個)をひとまとめにしてシュリンク包装、または専用袋に封入します。その袋には、内容物と製造ロットが紐付けられたQRコードを印字します。
現場に届いた際、あなたはスマートフォンやハンディ端末で、その袋のQRコードを「ピッ」とスキャンするだけです。それだけで、ボルト4本とナット4個の検収が完了し、同時に基幹システムに入庫データが反映されます。
この仕組みを導入することで、以下のメリットが数字として現れます。
検収工数の削減:目視カウントが不要になり、検収時間は従来の半分以下、つまり50%削減されます。
物流費の圧縮:サプライヤー側も「バラ」で管理するより「パック」で在庫管理する方がピッキング効率が上がるため、大量発注を前提としたボリュームディスカウントの交渉が可能になります。
スペースの有効活用:バラバラの箱が並ぶ資材置場から、整理されたパック保管に変わることで、現場の5Sが飛躍的に向上します。
「技術を理解し、ITを活用して現場をスマートにする」。これこそが、社内で高く評価される現代のプロフェッショナルの姿です。
リスク回避のチェックリストと明日からのアクション
パック発注への切り替えは、単なる効率化だけでなく、リスク管理の質も高めます。最後に、あなたが「技術のプロ」としてこの施策を完遂するためのチェックリストをまとめました。
【パック発注導入時のリスク回避チェックリスト】
1.強度区分の整合性は取れているか パック化する際、ボルトに対してナットの強度が不足していないか、規格に基づいた組み合わせであることをサプライヤーと再確認すること。
2.ロット管理がなされているか 万が一、ボルトに不具合が見つかった際、どのパックがどの製造ロットなのかを追跡(トレーサビリティ)できる仕組みになっているか。QRコードやラベルでの管理が推奨される。
3.現場の配布単位と合致しているか 10A〜50Aフランジ規格ごとに、必要な本数が正確にパッキングされているか。現場で「袋を開けてまた分ける」という作業が発生しては本末転倒である。
4.梱包資材の廃棄コストは考慮されているか 過剰なパッキングはゴミを増やします。環境配慮(SDGs)の観点から、リサイクル可能な素材や、簡易的かつ堅牢な梱包方法を選択しているか。
5.サプライヤーとの「WIN-WIN」が築けているか 無理なパック化の押し付けは単価上昇を招く。セット化によるサプライヤー側の在庫管理メリットを強調し、年間契約などのボリュームメリットを提示できているか。
小口径フランジのボルトという、一見小さな部品に目を向け、その背後にある巨大な物流コストと工数のムダを指摘できる力。それこそが、現場を統括する監督に求められる「プロの視点」です。
「いつもバラで買っているから」という慣習を疑い、JIS規格に裏打ちされた安全な組み合わせを「パック」という仕組みで提供する。この提案は、必ずや購買部門や経営層の目にも、あなたの論理的な思考能力として映るはずです。
まずは、現場で最も頻繁に使われるサイズから、テストケースとしてパック化を検討してみてください。あなたが変える「袋一つ」の重みが、現場の景色をよりクリーンで効率的なものへと変えていくのです。