誰も教えない話

JIS B 1180徹底解説!SSボルトをフランジに使う際の落とし穴

安価で入手しやすいSS400並ボルト(JIS B 1180)ですが、圧力のかかるフランジへの流用には大きなリスクが伴います。

強度区分「4.6」という物理的な限界を理解し、熱や圧力による「ボルトの伸び切り」を防ぐための正しい選定基準を持つことが不可欠です。

プロの現場管理・購買として、単価の安さだけでなく、ミルシートの数値に基づいた「ライフサイクルコスト」で判断する重要性を解説します。

「SSでいいよね?」に潜む見えないコストとリスク

とりあえずSS400の並ボルトでいいよね?在庫もあるし安いし、、、

現場でよく耳にするこのセリフ、実は結構ドキッとするフレーズなんです。

私たちが普段「並ボルト(なみぼると)」と呼んでいるのは、主に「JIS B 1180」という規格に基づいた六角ボルトのこと。

そして、その材料として最もポピュラーなのが「SS400(一般構造用圧延鋼材)」です。ホームセンターでも手に入るほど身近で、コスパも最強。

でも、ちょっと待ってください。何も考えず、そのボルトで配管のフランジを締めようとしていませんか?

現場監督としてまず知っておきたいのは、「ボルトは単なる留め具ではなく、強力なバネである」ということです。

フランジ接続は、ボルトを締め付けることで発生する軸力(じくりょく)によって、ガスケットをギュッと押し潰し、中の流体が漏れないようにしています。

SS400の並ボルトは、この「バネの力」が配管専用のボルトに比べて頼りない、という特性があります。「今までこれで漏れたことないし大丈夫」という声もありますが、それはたまたま条件が良かっただけかもしれません。

もし、高圧ラインや温度変化が激しい場所でこれを使うと、ある日突然ボルトが伸びきって「バネ」として機能しなくなり、大惨事を招く可能性があるのです。

安価なボルトを選んで数十円を浮かせた結果、数千万円の損害が出る……そんな「時限爆弾」を仕入れないために、まずはその中身(スペック)を解剖していきましょう。

  テクニカルに解剖!強度区分「4.6」の正体
さて、ここからは少しエンジニア寄りの話をしましょう。ボルトの頭を見ると、「4.6」という数字が刻印されていることがありますよね。これが今回の主役、「強度区分」です。これを理解すると、ボルトの限界がハッキリ見えてきます。
「4.6」という数字の読み解き方

この数字は、ボルトの強さを表す世界共通のコードです。これを理解すると、ボルトの限界がハッキリ見えてきます。

「4」の意味: 引張強さ(材料がちぎれる時の強さ)の最小値が「400 N/mm2」であることを示します。

「.6」の意味: 降伏点(これ以上伸ばすと元に戻らなくなる限界点)が、引張強さの60%であることを示します。

つまり、計算するとこうなります。

400 x 0.6 = 240 N/mm2

この「240 N/mm2」というのが、このボルトが「バネ」として元に戻れるギリギリの境界線です。

 現場監督が知っておくべき「許容引張応力」

設計の世界では、この限界点ギリギリで使うことはありません。「安全率」を見ます。一般的に、長期的に荷重がかかる場所での許容引張応力は、降伏点の値を安全率(例えば1.5から2.0など)で割ったものになります。

 

項目 数値 意味
最小引張強さ 400 N/mm2 ちぎれる時の強さ
降伏点(耐力) 240 N/mm2 伸びきって元に戻らなくなる点
設計上の目安 約100から140 N/mm2 安全を考慮して運用する強さ

 

 

 高張力ボルトとの圧倒的な差

プラントでよく使われる「強度区分 10.9」の高張力ボルトと比較してみましょう。

10.9の降伏点は約「940 N/mm2」です。つまり、SS400並ボルトは、プロ仕様のボルトの 4分の1程度の力 しか持っていないことになります。強く締めれば締めるほど安心……と思われがちですが、強すぎる力で締めると、SS400はあっさりと「伸びきって」しまいます。

一度伸びきったボルトは、温度変化で配管が伸び縮みした際についていけず、すぐに緩みが発生します。これが漏洩の最大の原因なのです。

JIS規格の壁と、圧力配管における「禁じ手」

「JIS規格品なんだから、どこに使ってもいいんでしょ?」そう思っている購買担当者の方、実はここが一番の落とし穴です。JIS B 1180(六角ボルト)はあくまで「一般用」の規格であり、圧力配管や圧力容器用には別のルールが存在します。

 圧力容器用規格(JIS B 8265)との乖離

厳しい圧力がかかる場所では、JIS B 8265(圧力容器の構造規格)などが適用されます。ここには、材料ごとに「温度に応じた許容引張応力」が細かく定められています。しかし、SS400という材料には、高温時や低温時のデータ保証がほとんどありません。

温度の壁: SS400は常温では優秀ですが、100度を超えると急激に柔らかくなります。逆にマイナス20度を下回ると、突然パリンと割れる「低温脆性(ていおんぜいせい)」のリスクが出てきます。

規格の不一致: 10Kを超える高圧ラインや、危険物(薬品・ガス)が流れるラインにJIS B 1180を流用することは、実はエンジニアリングの視点では「規格外の禁じ手」に近い行為なのです。

 購買視点での「隠れたコスト」

安価なボルトを選んで、1個あたり50円浮かしたとしましょう。100本で5,000円の節約です。

しかし、そのボルトが原因で漏洩が起き、プラントが半日止まったらどうなるでしょうか?ラインの洗浄、補修、再稼働にかかる人件費、そして納期の遅れ……損害額は数百万、数千万に膨れ上がります。

SS400並ボルトは、「低圧・常温・非危険体」の3つの条件が揃った時にのみ真価を発揮する材料です。それ以外での使用は、結果として最も高いコストを払うことになるかもしれません。

プロの仕事は「ミルシート」のチェックから始まる

最後に、現場監督や購買担当者が明日から実践できる、デキるプロのポイントをまとめます。それは、「ミルシート(材料証明書)」を数字で読み解くことです。

 ミルシートの確認ポイント3選

ボルトが入荷したら、書類をファイルに綴じる前に以下の3点をサッとチェックしましょう。

  1. タイトルに「JIS B 1180」とあり、強度区分欄に「4.6」以上の数字があるかを確認します。
  2. 化学成分の「P(リン)」と「S(硫黄)」:これらは「不純物」です。SS400はこれら不純物の規定が比較的ゆるいのですが、ここの数値が低ければ低いほど、粘り強く折れにくい良い材料と言えます。
  3. 引張強さと伸びの数値:単に「SS400」という名称だけでなく、実際の試験結果が400 N/mm2をしっかり上回っているかを確認してください。

ボルトの簡易的な選定基準

SS400(4.6): 水道や排水など、常温・低圧の二次ライン用。

S25CやSNB7など: 蒸気、高温、高圧、危険体などの一次ライン用。

「規格がある」ことと「その用途に適している」ことは別物です。現場管理のプロなら、単価ではなく「LCC(ライフサイクルコスト)」、つまりその設備が一生を終えるまでにかかるトータルコストで材質を語りましょう。

現場で「このボルトで大丈夫?」と聞かれたとき、「強度区分4.6の降伏点だと、このラインの熱変化には耐えられません。SNB7に変更しましょう」と答えられたら、もう立派な一流の現場監督です。

小さなボルト1本へのこだわりが、大きな安全と信頼を作ります。自信を持って、正しい材料を選んでいきましょう!