フランジは「配管の端に付いている、穴の開いた鉄の板」という認識になりがちです。溶接作業のようなダイナミックな変化がなく、ただそこに存在するだけの部品に見えるかもしれません。 しかし、いざ圧力検査で漏洩が発生したり、数年後のメンテナンスでボルトが外れなくなったりした際、その原因の多くは「フランジの選定ミス」や「フランジ面の管理不足」に集約されます。
この記事は、「なぜフランジにはこれほど多くの種類と規格があるのか」「なぜ厚みや形状がこれほど厳格に決められているのか」という疑問を解消し、フランジを単なる接続部品ではなく、プラントの圧力を支える「構造体」として正しく理解するための記事です。
記事の要約
フランジの本質は、配管内の圧力を「面」で受け止め、ボルトの軸力をガスケットへ正確に伝えるための「高剛性な荷重変換プラットフォーム」である。
接続部における「剛性」の担い手
配管システムにおいて、直管部は流体の圧力を円周方向の引張応力として受け止めますが、フランジ接続部は全く異なるメカニズムで機能します。 フランジの最大の役割は、ボルトによって生み出される「点」の力を、ガスケット全周にわたる「面」の力へと変換することです。このとき、フランジ自体に十分な「剛性(変形しにくさ)」がなければ、ボルトを締め込んだ際にフランジが反り返ってしまい、ガスケットに均一な圧力をかけることができません。 つまり、フランジは単なる継手ではなく、システム全体の気密性を担保するための「土台」なのです。
「座(フェース)」の形状が密閉を左右する
フランジの表面、すなわちガスケットが触れる部分は「座(フェース)」と呼ばれ、その形状には明確な意図があります。
RF型(レイズドフェイス):ボルト穴の内側だけが一段高くなっている形状です。締め付け力を狭い範囲に集中させることで、ガスケットの面圧を効率的に高めることができます。現在のプラント配管において最も標準的な形状です。
FF型(フラットフェイス):全面が平らな形状です。主に鋳鉄製バルブや、強度の低い樹脂製フランジなど、締め付けすぎによる破損を防ぎたい場合に使用されます。
RJ型(リングジョイント):溝の中に金属リングを嵌め込むタイプです。超高圧・高温条件下でも、金属同士の接触によって強固な密閉を実現します。
図面指示された「座」の形状が、使用するガスケットと正しく適合しているかを真っ先に確認しなければなりません。
フランジ形状(ハブ)の設計意図
フランジとパイプをどのように接続するかによって、フランジ自体の形状も変わります。これは単に溶接のしやすさだけでなく、強度の伝達に直結します。
SOフランジ(スリップオン):パイプをフランジの中に差し込んで、内側と外側の2箇所を溶接します。施工が容易で安価ですが、応力集中に弱いため、比較的低圧なラインに採用されます。
WNフランジ(ウェルドネック):フランジから首(ハブ)が長く伸びており、パイプと突き合わせ溶接をします。首があることでボルトの締め付け荷重が分散され、高圧、高温、あるいは振動の激しい過酷な環境に耐えることができます。
「なぜここはSOではなくWNなのか?」その背景には、設計者が計算した「疲労破壊への耐性」という根拠があるのです。
フランジ面(シート面)の管理
フランジが「土台」として機能するために、最も繊細に管理されるべきがシート面の状態です。 フランジ表面には、よく見るとレコード盤のような細かな溝(セレーション)が刻まれています。これはガスケットが滑り出すのを防ぎ、密閉性を高めるための意図的な仕上げです。
現場監督がチェックすべき致命的な不具合は、以下の2点に集約されます。
半径方向の傷:フランジの内側から外側へ向かう傷は、流体の「逃げ道」となり、どれだけ締めても漏れが止まりません。
腐食とスケール:古い配管を開放した際、シート面にサビや以前のガスケットの残りカスが付着していると、新しいガスケットが密着しません。
「この程度の傷なら大丈夫だろう」という妥協が、後の試運転での「不合格」を招きます。
規格の裏にある「安全性」の重み
JISやJPI、ASMEといった規格によって、フランジの厚みやボルト穴の数は厳密に定められています。これは、想定される最高使用圧力(クラス)に対して、フランジが「破壊されない」だけでなく「漏洩を許すレベルの変形を起こさない」ことを保証するためのものです。
これらの規格は単なる暗記対象に見えるかもしれません。しかし、その数値一つひとつは、過去に起きた事故の教訓から導き出された「安全の境界線」です。 規格外の薄いフランジを使ったり、ボルト穴の位置を無理に合わせたりする行為が、どれほど危険なことか。それを論理的に職人に説明できてこそ、プロの監督です。
「フランジは物言わぬ鉄の塊ですが、その厚みや形状には、プラントの安全を数十年先まで守り抜くという設計者の意志が込められています。その意志を、現場で最後に完成させるのはあなたです。」