ナフサなど静電気着火リスクが極めて高い流体の貯槽において、内部浮屋根式タンク(CFRT)の採用は不可欠な安全対策です。
本記事では、固定屋根による外部環境からの保護と、浮屋根による液面露出低減がもたらす爆発雰囲気抑制の相乗効果を論理的に解説します。
また、配管設計における厳格な流速制限や緩和管の仕様、JIS B 8501やAPI 650等の関連規格に基づく設計要件、さらに定検工事におけるガスフリーや内部洗浄時の急所まで、施工管理と設計に直結する技術情報を網羅します。
ナフサ貯槽における静電気リスクとCFRTの基本概念
ナフサの物理的特性と静電気発生のメカニズム
ナフサは引火点が低く(マイナス数十度)、常温であっても容易に可燃性蒸気を発生する特性を持っています。さらに、電気伝導率が極めて低いため、配管内を流動する際やタンクに投入される際の摩擦、せん断によって発生した静電気が液中に蓄積しやすいという、非常に危険な性質を帯びています。
静電気の蓄積は、液面とタンク壁面、あるいは内部構造物との間で火花放電を引き起こす原因となります。これが可燃性蒸気と空気の混合ガス(爆発性雰囲気)に着火した場合、大規模な火災や爆発事故に直結します。
したがって、ナフサの貯槽設備設計においては、いかにして静電気の発生を抑え、発生した静電気を安全に大地へ逃がし、かつ爆発性雰囲気を形成させないかが最重要課題となります。
貯槽形式の比較とCFRT(内部浮屋根式タンク)の構造
プラント設備の貯槽には、大きく分けてコーンルーフタンク(CRT:固定屋根式)とフローティングルーフタンク(FRT:浮屋根式)があります。
CRTは雨水や外部の異物混入を防ぐ点では優れていますが、液面の上部に広大な気相部が存在するため、ナフサのような揮発性の高い流体では常に爆発性雰囲気が形成されるリスクを抱えています。
一方、FRTは液面に直接浮屋根を浮かべることで気相部を物理的に排除し、蒸発ロスと爆発性雰囲気の形成を劇的に抑えることができますが、屋根が外部に露出しているため、雨水の浸入や積雪によるルーフの沈降リスクが伴います。
これら両者の課題を解決し、利点を融合させたのが内部浮屋根式タンク(Covered Floating Roof Tank : CFRT)です。
外殻としての固定屋根を持ちながら、内部に浮屋根を備える二重構造となっており、気相部の最小化による安全確保と、外部環境からの流体保護を同時に実現します。
CFRTがもたらす固定屋根と浮屋根の相乗効果
爆発性雰囲気の完全な隔離と抑制
CFRTにおける最大の相乗効果は、爆発性雰囲気の形成を物理的かつ多重的に抑制できる点にあります。内部の浮屋根は液面に密着して上下に稼働するため、ナフサが蒸発できる自由表面を極小化します。
浮屋根の周囲にはシール材(周辺シール機構)が設けられており、タンク側板との隙間からの蒸気漏洩を防止します。万が一、シール部から微量の可燃性蒸気が漏洩した場合でも、上部を覆う固定屋根にはベンチレーター(換気孔)が規格に基づき適切に配置されており、自然換気によって蒸気を爆発下限界(LEL)のはるか未満に希釈し、大気中へ安全に放出する設計となっています。
外部環境からの保護と静電気リスクの低減
固定屋根が存在することで、落雷による直接的な着火リスクから内部の浮屋根および可燃性流体を保護することができます。外部の鋼製固定屋根がファラデーケージのような役割を果たし、雷撃電流をタンク側板から接地網へと安全に逃がすためです。
また、雨水が内部の液に混入しないため、水とナフサが分離する過程で発生する沈降静電気(水滴が油中を沈降する際に強い静電気を帯電する現象)のリスクを完全に排除できる点も、CFRTを採用する上での大きな優位性です。
関連規格(JIS、API、JPI)に基づく設計要件
JIS B 8501およびAPI 650に基づく構造設計
CFRTの構造設計は、国内では主に「JIS B 8501(鋼製石油貯槽の構造)」、国際的には「API Standard 650」に準拠して行われます。
これらの規格では、タンク本体の寸法、材質、溶接方法、耐震設計、風荷重や積雪荷重に対する強度計算が厳格に定められています。
API 650においては、CFRTの内部浮屋根に関する詳細な要件は「Appendix H (Internal Floating Roofs)」に規定されています。ここには、浮力を確保するためのポンツーン(浮き室)の容量計算や、浮屋根が液面上に浮上する前(ルーフサポートで支持されている状態)での耐荷重条件が記載されています。
定検時などに作業員が浮屋根上に乗って作業することを想定し、特定の集中荷重や等分布荷重に耐えうる構造設計が求められます。
浮屋根の接地(ボンディング)要件
浮屋根は液面に浮遊しているため、タンク本体(側板)と電気的に絶縁された状態になりやすく、静電気が蓄積する大きな要因となります。
これを防ぐため、浮屋根とタンク本体またはルーフサポートとの間を、可撓性のある導線(ボンディングケーブル)や静電気導出用の専用アース装置で確実に接続することが規格により義務付けられています。
API RP 2003(可燃性液体の静電気に対する防護)等に基づき、全体の接地抵抗値は通常10オーム以下(実務上はさらに低い値)となるよう設計・施工されなければなりません。
配管仕様と設計条件:静電気を抑制する流体制御
ナフサラインの配管仕様(マテリアルクラス)と設計条件
配管設計においては、流体の特性に応じた配管仕様(パイピングクラス)の選定が不可欠です。ナフサラインの一般的な基本設計条件の一例を以下に示します。
- 流体:ナフサ ・設計圧力:1.0 MPaG から 1.96 MPaG
- 設計温度:マイナス10度 から 65度
- 配管材質:炭素鋼(JIS規格におけるSTPG370、SGP、PT370、またはASTM規格のA106 Gr.Bなど)
- 腐食代:1.5 mm から 3.0 mm
ナフサ自体は腐食性が高くないため、基本的には炭素鋼配管が使用されます。ただし、配管の接合部においては、静電気対策としての電気的導通性を確保するため、フランジ接続部には導電性の高いガスケットを使用するか、フランジ間にボンディングワイヤーを取り付ける(ジャンパー線を設ける)ことが規定されます。
バルブ類についても、ボール等の内部部品が絶縁状態になって静電気が孤立蓄積しないよう、アンチスタティック機構(静電気防止構造)を備えたボールバルブやゲートバルブを選定することが、配管仕様書において厳格に要求されます。
流速制限のロジックとサイジング
静電気の発生量は、配管内を流れる流体の流速の2乗から3乗に比例して増加します。したがって、配管の口径(配管サイズ)決定は、単なる流体摩擦による圧力損失の計算だけでなく、静電気抑制のための「流速制限」が最大の設計制約となります。
初期受入時の流速制限
タンクが空の状態、あるいは内部の流入管(ディップパイプ)の出口が液面下に完全に水没するまでの間は、流体の飛沫化(スプラッシュ)による静電気発生を防ぐため、配管内流速を1.0 m/s以下に制限します。
通常運転時の流速制限
流入管の出口が十分に液面下に没した後であっても、ナフサのような低導電性流体の場合は、配管内流速を最大でも3.0 m/s以下(推奨はさらに低く、配管径に応じた規定値以下)に抑えるよう配管径をサイジングします。
流入管(ディップパイプ)の形状と緩和管(リラクゼーションパイプ)
流入口の設計も極めて重要です。流体が気相中を落下して液面に叩きつけられると激しく帯電するため、流入配管はタンクの下部まで延長し、常時液面下に没するディップパイプ構造とします。
さらに流速のエネルギーを分散させるため、側板に沿うような斜め方向や上方に流体を逃がすスロット式ディップパイプを採用し、タンク底部の水分やスラッジの巻き上げを防止します。
また、フィルターやポンプなどの機器を通過する際、流体は激しい摩擦を受け大量の静電気を発生させます。これらの機器からタンクに至る配管距離が短い場合、タンク直前で配管口径を意図的に大きくし、流速を落として流体が滞留する時間を確保する「緩和管」を設けます。
設計条件として、流体が緩和管内に30秒間以上滞留できる容積を確保し、発生した静電気の大半を配管壁を通じて大地へ緩和させます。
定検工事における急所と注意事項
メジャー定検工事や新設工事の参入において、CFRTでの作業は特有の危険性を伴います。監督員および設計担当者が現場で留意すべき絶対的な急所を以下に詳述します。
開放前の準備とガスフリー作業の徹底
定検工事においてタンクを開放する際、最も危険なのは初期のガス抜き(ガスフリー)作業です。CFRTは固定屋根と浮屋根の間の空間、および浮屋根の下部空間という2層構造になっています。
配管を通じて可能な限り液を抜き取った後、水張り等により残液を浮上させて回収します。その後、窒素等の不活性ガスを用いて内部の可燃性蒸気をパージし、最終的に空気で置換します。
この際、固定屋根上部のマンホールからの測定だけでなく、内部の浮屋根下部(ポンツーン内部やサポート下部)に可燃性ガスが残留していないか、複数のポイントで酸素濃度(20%以上)および可燃性ガス濃度(LELの1%未満などの厳しい基準)を厳密に測定しなければなりません。
また、浮屋根に設けられたオートブリーダーベント(自動通気弁)が正常に作動し、内部のガスが抜ける状態になっているかも確認の急所です。
内部洗浄時における静電気対策
タンク内部の洗浄作業では、高圧洗浄機が使用されることがありますが、高圧水が壁面や残留スラッジに衝突する際、帯電ミストによる静電気の発生リスクがあります。洗浄作業に使用するホースは必ず導電性(ワイヤー入り等)のものを使用し、ノズル先端からアースを確実に取得することが必須です。
また、洗浄中もスラッジから可燃性ガスが揮発する可能性があるため、防爆型の強制換気ファンを使用し、作業環境を常に新鮮な空気に保ちます。
浮屋根およびシール機構の点検ポイント
内部検査を行う際の技術的な着眼点です。浮屋根と側板の間のシール材(ワイパーシールやフォームシールなど)は、長期間の上下動による摩擦で摩耗・損傷します。
シールの破れは可燃性蒸気の直接的な漏洩に繋がるため、全周にわたり目視および触診で劣化具合を点検します。 また、浮屋根とルーフサポート、あるいは側板を繋ぐボンディングケーブル(アース線)は金属疲労で断線しやすい部品です。
断線は即座に静電気着火リスクとなるため、導通テスト(テスター等による抵抗値測定)を実施し、規定値(10オーム以下)を満たしているかを客観的な数値で確認することが重要です。
閉鎖空間(コンファインドスペース)での作業管理
CFRTの内部は典型的な閉鎖空間です。浮屋根の上で作業を行う場合、固定屋根に覆われているため採光が悪く、換気も滞りやすくなります。
作業中は必ずマンホール外部に専任の監視員を配置し、内部の作業員との連絡体制を確保します。溶接やグラインダー作業などの火気を使用する工事を行う場合は、直前に再度ガス測定を行い、周囲の防炎シートによる養生や消火器の配置など、万全の措置を講じた上で火気許可証(ホットワークパーミット)を発行するプロセスを遵守してください。
安全なプラント操業に向けた設計と施工の連携<
CFRTの設計と施工管理は、ナフサの物性を深く理解し、固定屋根と浮屋根の構造的特性、および配管内の流動によって引き起こされる静電気現象を論理的に結びつけて考える必要があります。
JISやAPI等の規格は、過去の事故事例に基づく安全の集大成です。設計担当者は配管仕様からアースの細部に至るまで妥協なき設計を行い、工事監督員は定検工事という非定常作業において、ガスフリーや静電気対策といった急所を確実に管理することが、プラントの安定操業と安全確保の絶対条件となります。