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濃硫酸(H2SO4)配管設計の最適解|JIS/ASTM規格に基づく材料選定

プラントの安定稼働を支えるのは、華やかな新技術だけではありません。むしろ、古くから扱われてきた「化学物質」との向き合い方、その積み重ねこそが信頼の礎となります。

今回は、数ある化学流体の中でも特に取り扱いが難しい「濃硫酸(H2SO4)」の配管設計とメンテナンスを取り上げます。

濃硫酸は、一歩間違えれば重大な人身事故や設備損壊を招く恐ろしい流体ですが、その特性を正しく理解し、規格に基づいた設計を行えば、安全に制御することが可能です。

濃硫酸(H2SO4)の腐食挙動と材料選定の論理

濃硫酸の配管設計において、まず理解しなければならないのは「濃度と材料の関係」です。一般的に、硫酸は「酸」ですから金属を激しく腐食させるイメージがあるでしょう。しかし、濃度が90%を超える「濃硫酸」においては、非常に興味深い挙動を示します。

炭素鋼(Carbon Steel)を濃硫酸に浸すと、表面に硫酸鉄(FeSO4)の薄い防食皮膜が形成されます。

この皮膜がバリアとなり、内部の腐食進行を劇的に遅らせるのです。これが、ステンレス鋼のような高価な材料ではなく、一般的な炭素鋼がメインで使用される理由です。

ただし、注意が必要なのは「温度」と「濃度」です。温度が上がれば腐食速度は対数関数的に上昇します。

また、水分が混入して濃度が下がると(希硫酸になると)、この防食皮膜は一瞬で破壊され、炭素鋼は激しく腐食されます。設計条件として、最高使用温度を40℃~50℃以下に設定することが一般的です。

設計の急所:流速制限(0.6m/s ~ 0.9m/s)の重要性

濃硫酸配管において、設計者が最も神経を使うべきパラメータは「流速」です。 先ほど説明した通り、炭素鋼の耐食性は表面の「硫酸鉄(FeSO4)皮膜」に依存しています。この皮膜は非常に脆弱で、物理的な力に弱いという欠点があります。

流速が速すぎると、流体によるエロージョン(浸食)によって皮膜が剥ぎ取られ、剥き出しになった金属面が再び腐食され、また皮膜ができ、それが剥がれる……という悪循環に陥ります。

これを「エロージョン・コロージョン」と呼びます。

実務上の設計基準としては、以下の数値を守ることが鉄則です。

  • ・推奨流速:0.6m/s 程度
  • ・最大許容流速:0.9m/s 以下

もしプロセス上の理由でこれ以上の流速が必要な場合は、配管径を上げて流速を落とすか、内面をテフロンライニング(PTFE)にする、あるいは高耐食性の合金(ハステロイ等)を選定する決断が必要になります。

-29℃の壁:低温脆性と衝撃試験の設計思想

プラントの立地条件や冬季のシャットダウン、あるいはプロセス上の冷却により、配管が低温にさらされるケースがあります。ここで重要なのが「-29℃」という境界線です。

ASTM規格(例えば ASTM A106 Gr.B)やJIS規格において、-29℃を下回る設計温度では「低温脆性」による破壊のリスクが急増します。炭素鋼は温度が下がると粘り強さ(靭性)を失い、ガラスのようにパリンと割れる性質があるためです。

設計条件が -29℃を下回る場合、以下の対応が求められます。

  • 材料のアップグレード:ASTM A333 Grade 6(低温用炭素鋼鋼管)などの選定。
  • 衝撃試験(シャルピー試験)の実施:材料が設計温度で十分なエネルギー吸収能を持っているかを確認します。
  • フランジ等の規格確認:JPI-7S-15 などの規格に基づき、低温対応の材質(A350 LF2等)を選定します。

寒冷地にあるプラントの定検工事では、保温(トレース)が切れた際の局所的な温度低下にも留意しなければなりません。

JIS・ASTM・JPI規格の具体的な活用方法

配管仕様を決定する際、根拠となる規格の引用は不可欠です。濃硫酸配管で一般的に用いられる仕様例を整理します。

管(Pipe)

ASTM A106 Grade B(シームレス管) 溶接部の腐食リスクを最小限にするため、電縫管ではなくシームレス管(継目無鋼管)を選択するのが定石です。

フランジ(Flange)

JPI-7S-15 または ASME B16.5 クラス300(300lb)以上の高圧力等級を採用することが多いです。これは強度のためというより、シール性を高めて漏洩リスクを減らすための設計的配慮です。

ガスケット

PTFE(テフロン)被覆ガスケット 濃硫酸に対して究極の耐薬品性を持つPTFEは必須です。ただし、テフロンは「クリープ(熱による変形)」を起こしやすいため、芯材に強度のあるメタルやグラファイトを入れたものを選定します。

これらの規格を適切に織り交ぜることで、誰が見ても「論理的に妥当な設計」であることを証明できます。

水素グルービング(Hydrogen Grooving)への対策

定検工事で古い配管を切断した際、配管の内面、特に「上部(トップ部)」に深い溝のような腐食跡を見たことはありませんか?これが、濃硫酸配管特有の「水素グルービング」です。

濃硫酸と炭素鋼がわずかに反応すると、水素(H2)ガスが発生します。この小さな気泡が、配管の上部を伝って流れる際、表面の防食皮膜(FeSO4)を物理的にこすり落としてしまいます。

皮膜がなくなった部分は集中的に腐食され、あたかも「溝(グルーブ)」を掘ったような損傷を与えます。

これは水平配管や、流速が極めて遅い(0.3m/s以下)箇所で顕著に現れます。

対策としては

  • 配管に適切な勾配をつける。
  • 水素が溜まりやすい箇所の肉厚測定を重点的に行う。
  • 必要に応じて「デッドレグ(液溜まり)」を排除する設計変更を行う。

定検時の非破壊検査(UT:超音波探傷検査)では、配管の底面だけでなく、必ず「真上」の測定を指示してください。

定検工事での急所:洗浄と中和のプロセス

さて、ここからは工事監督員にとって最も重要な「現場の安全」に関する話です。定検工事で濃硫酸配管を開放(フランジ解体)する際、最も恐ろしいのは残留液による事故です。

濃硫酸は「吸湿発熱性」が極めて高い物質です。配管内に残った濃硫酸に、洗浄用の水が少量混入すると、一気に沸騰・飛散します。これを避けるための手順を徹底しなければなりません。

  • 窒素(N2)によるパージ:可能な限り液を押し出します。
  • 濃硫酸の抜き出し:ドレンからの完全抜き取りを確認します。
  • 段階的な洗浄:いきなり大量の水を入れるのではなく、まずは不活性な溶剤や、あるいは徹底したN2パージの後に、大量の水で一気にフラッシング(水洗い)を行います。

「中途半端な水洗い」が一番危険です。配管内に残った少量の酸が、水と反応して希硫酸となり、炭素鋼を数時間で食い破ることもあります。

洗浄後は、pHを確認し、必要に応じてソーダ灰などで中和処理を行うことが標準的な手順です。

溶接補修における注意事項

定検中に配管の減肉が見つかり、溶接補修や部分更新を行う場合、以下の点に留意してください。

濃硫酸配管の溶接部、特に熱影響部(HAZ)は、母材に比べて腐食しやすくなる傾向があります。

  • バックシールドガスの使用:溶接内面の酸化を防ぎ、平滑なビードを形成させることで、乱流による皮膜破壊を抑えます。
  • PWHT(溶接後熱処理):応力腐食割れを防ぐため、設計仕様に基づき適切に実施します。

また、古い配管を溶接する場合、金属組織の中に水素(H2)が吸蔵されている「水素脆化」の懸念もあります。予熱を十分に行い、水素を放出させてから溶接に臨むのがベテランの技です。

濃硫酸(H2SO4)という流体は、正しく恐れ、正しく扱うことで、私たちのプラントにとって不可欠な役割を果たしてくれます。炭素鋼という一見ありふれた材料が、薄い皮膜一枚でこの強酸に耐えているという事実は、まさに化学と工学の神秘と言えるでしょう。

設計担当者の皆さんは、今回お話しした「流速」と「温度」、そして「-29℃」の基準を設計思想の柱としてください。 工事監督員の皆さんは、現場での「水素グルービング」の痕跡を見逃さず、洗浄時の「水との反応」を徹底的に警戒してください。