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配管密封の三位一体「ガスケット」の基礎

プラントにおいて、ガスケットは単なる「パッキン」ではありません。

数百度の高温、あるいは凍り付くような極低温、そして目に見えないほどの高圧に晒される過酷な環境下で、プラントの安全と環境を守る最後の砦です。

どんなに高価なポンプや反応器を備えていても、わずか数ミリのガスケット一つが適切でなければ、すべては台無しになります。

この記事では「ガスケットの本質」を、規格の背景や物理的な挙動も含めて皆さんに説明します。

ガスケットの本質:なぜ「潰れる」ことが必要なのか

ガスケットの役割を一口で言えば、「フランジ面の不規則な凹凸を埋める」ことにあります。

皆さんが現場で目にするフランジの表面は、一見すると滑らかな金属面に見えるかもしれません。しかし、ミクロン単位で観察すれば、そこには加工時のツールマーク(旋盤の跡)や、経年劣化による微細な傷、腐食による凹凸が必ず存在します。

ガスケットはこの凹凸に対して、ボルトの締付力を利用して自分自身を押し潰し、相手の形に「なじむ」ことで隙間を塞ぎます。これを専門用語で「塑性変形(そせいへんけい)」または「弾性変形(だんせいへんけい)」と呼びます。

二つの重要な定数:m値とy値

ここで、設計計算に携わるなら必ず知っておくべき概念が二つあります。それは「ガスケット係数(m値)」と「最小設計締付圧力(y値)」です。

y値(最小設計締付圧力): これは、流体の圧力がかかっていない状態で、ガスケットをフランジ面になじませるために最低限必要な「潰す力」のことです。

m値(ガスケット係数): 実際に流体が流れた際、内部からの圧力に負けずにシール性を維持するために必要な、締付力と内部圧力の比率を指します。

若手のうちは「規格品を選べば大丈夫」と思いがちですが、このmとyのバランスが崩れると、運転開始後に漏洩が発生します。

例えば、硬すぎるガスケットを選んでしまうと、y値が高すぎてボルトが負けてしまい、初期のなじみが不十分になる。逆に柔らかすぎると、高圧下でm値を維持できず、ガスケットが外へ吹き飛ばされる「ブローアウト」の原因となります。

表面粗さとガスケットの相性

フランジの表面仕上げ(ガスケット座)にも注目してください。一般的には「音響溝(フォノグラフィック・フィニッシュ)」と呼ばれる同心円状の溝が彫られています。

この溝にガスケットの素材が食い込むことで、シール性が向上します。しかし、テフロンなどの滑りやすい素材を使う場合、溝が浅すぎるとガスケットが滑り出してしまうことがあります。

現場でフランジを磨く際、「ピカピカにすれば良い」というわけではないのが、この技術の面白いところです。

主要規格の深淵:JIS、JPI、ASTMを使い分ける理由

日本の産業を支える「JIS B 2404」、国内の一般的な化学プラントやユーティリティ配管で最も普及しているのがJIS規格です。JIS B 2404は、ガスケットの寸法を規定しており、入手性が高く、コストパフォーマンスにも優れています。水や空気、比較的低圧の蒸気ラインなどでは、まずこの規格を検討することになります。

石油・石油化学のデファクトスタンダード「JPI-7S-15」

一方で、私たちが扱うような高度なプロセス配管では「JPI(日本石油学会)」規格が主役となります。JPI規格は、米国のASME/API規格をベースにしており、石油産業特有の過酷な条件を想定して作られています。

JISとの大きな違いは、対応できる圧力段階(クラス)の細かさと、高温・高圧下での安全余裕の取り方にあります。

グローバルスタンダード「ASTM / ASME」

海外のライセンサーが設計したプロセスや、海外製の機器を導入する場合、必ずASTM(材料規格)やASME(設計規格)が登場します。

これらの規格で指定されたガスケットは、インチサイズが基本となります。JISの50AとASMEの2インチは、似ているようで外径やボルト穴の位置が微妙に異なります。これを混同することは、現場では致命的なミスに繋がります。

材質選定の3大分類

ガスケットは、その構造から大きく3つに分けられます。

非金属ガスケット(ジョイントシートなど):合成ゴムや繊維を固めたものです。安価で施工性が高いですが、高圧や高温には向きません。かつてはアスベストが主流でしたが、現在はノンアスベスト材が使われています。

半金属ガスケット(渦巻形ガスケット):私が最も信頼を置いているのがこれです。金属のV字形フープ材と、グラファイトなどの充填材を交互に巻き上げた構造です。金属の「バネ」のような復元力があるため、温度変化によるフランジの微小な動きに追従してくれます。

金属ガスケット(リングジョイントなど):超高圧・高温下で使用されます。金属同士を接触させてシールするため、非常に高い締付力が必要です。一度使うとフランジの溝も変形することがあるため、メンテナンスには高い技術が求められます。

3.温度と材質の相関: -29℃の境界線と熱の挙動

脆性遷移温度という見えない壁

プラントエンジニアが温度に対して最も敏感にならなければならないポイントの一つが、低温域における材料の挙動です。特に炭素鋼(カーボンスチール)を主軸とする設備において、 -29℃という数値は非常に重い意味を持ちます。

多くの炭素鋼材料は、この -29℃を下回る付近から、急激に材料の靭性(粘り強さ)を失い、ガラスのように脆くなる「脆性遷移(ぜいせいてんい)」を起こします。

この温度を下回る設計条件では、ガスケットも単に漏れないだけでなく、低温脆化を起こさない材質(ステンレス鋼や特殊合金)を選定しなければなりません。

例えば、プロパンやエチレンといった低温流体を扱うラインでは、ガスケットの金属部分にSUS304やSUS316Lを採用するのは当然として、充填材も低温で硬化しにくい材質を選ぶ必要があります。

高温下での「応力緩和(クリープ)」との戦い

逆に高温域(例えば300度を超えるようなケース)では、熱による「応力緩和」が最大の敵となります。ボルトでしっかりと締め付けたはずでも、高温に長時間晒されると、ガスケットやボルト自体がじわじわと塑性変形を起こし、締め付け力が低下していきます。

これを防ぐためには、熱膨張係数を考慮した設計が不可欠です。フランジ、ボルト、ガスケットの三者がそれぞれ異なる割合で伸び縮みするため、温度が上がった時に逆に「緩む」パターンと、温度が下がる時に「縮んで隙間ができる」パターン(サーマルサイクル)の両方を想定しなければなりません。

材料選定のミスが招く悲劇

過去の事例では、高温ラインに不適切なジョイントシートを使用してしまい、ゴム成分が炭化して消失、そのまま大規模な漏洩に至ったケースもあります。また、 -29℃以下のラインに通常の鋼製リムを持つガスケットを使い、低温による破損を招いた例もあります。

「以前もこれだったから」という安易な踏襲ではなく、常に「今回の設計温度に対して、この材質は物理的に耐えられるか?」を自問自答してください。

現場の知恵:完璧な密封を実現するための施工管理

締め付け順序は「対角線」が鉄則

どれほど優れたガスケットを選んでも、締め付け方が悪ければ意味がありません。一箇所だけを急激に締めると、ガスケットが片寄り、反対側に隙間ができてしまいます。

基本は「星形」に、対角線上のボルトを順番に、少しずつ荷重を上げていくことです。私はよく若手に「ガスケットと会話をしながら締めろ」と言います。手応えが均一に重くなっていく感覚を養ってください。

潤滑剤の重要性

ボルトのネジ山に塗布する「焼付防止剤(潤滑剤)」も、ガスケットの性能を左右します。摩擦係数が変われば、同じトルクで締めても、実際にガスケットを押す力(軸力)が変わってしまうからです。

潤滑剤の種類を統一し、規定のトルク値を守ることは、ガスケット選定と同じくらい重要です。

異常のサインを見逃さない

運転中のプラントを歩く際、フランジ部を観察してください。ガスケットの端がわずかに滲んでいる、あるいはボルトが極端に錆びている箇所はないでしょうか。

それは、内部でガスケットが悲鳴を上げているサインかもしれません。

また、開放点検時には、取り外した古いガスケットを必ず自分の目で確認してください。「均一に潰れているか」「変色していないか」「異常なへたりはないか」。

使用済みのガスケットは、プロセスの過酷さを物語る「通信簿」なのです。

プラントを支える皆さんへ

ガスケットは、消耗品でありながら、プラントの健全性を象徴する部品です。

今回お話しした規格の知識や、 -29℃という温度の重要性、そして物理的な挙動の理解は、皆さんが将来、より大規模で複雑なプロジェクトを担当する際の確固たる土台となるはずです。

教科書やカタログの数字を丸暗記するのではなく、なぜその数字が規定されているのか、その裏にある物理現象や過去の失敗に思いを馳せてみてください。現場の「生き字引」と呼ばれる人々は、例外なくそうした「なぜ?」を突き詰めてきた人たちです。