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フランジの材料選定と品質管理

これまでは形状や規格の話をしてきましたが、今回は「中身」の話、つまり材料選定と品質管理についてお話しします。

若手の皆さんは、よく「JISやASTMといった公的に認められた規格に合格していれば、それで十分ではないですか?」と聞いてきます。

しかし、数十年というスパンで設備を動かし続ける私たちの現場では、公的規格はあくまで「最低限のパスライン」に過ぎません。

なぜ、私たちがわざわざ厳しい追加ルールを課すのか。その理由を、現場の視点から紐解いていきましょう。

材料選定の「マージン」が安全を担保する

プラントの設計図面を見ると、そこには「ASTM A105」や「A182 F304」といった材料記号が並んでいます。これらは世界共通のルールであり、この通りに作れば一定の品質は保証されます。

しかし、プラントのエンジニアリング・スタンダードでは、これらに対してさらに厳しい「注文」をつけます。

それは、単に壊れないだけでなく、「現場で溶接がしやすいか」「目に見えない劣化が起きにくいか」という、運用フェーズを見据えたマージン(余裕)を確保するためです。

このマージンこそが、予期せぬトラブルからプラントを守る最後の砦になります。

炭素鋼(ASTM A105)の運用と課題

プラントで最も一般的に使われるのが、鍛造炭素鋼の「ASTM A105」です。非常に使い勝手が良い材料ですが、万能ではありません。

一般的に、適用温度範囲は -29°C から 425°C とされています。ここで注意が必要なのは、両極端の温度域です。

425°C に近い高温域では、空気中の酸素と反応して表面がボロボロになる「酸化」が進行しやすくなります。

逆に -29°C に近い低温域では、鋼材がガラスのように脆くなる「脆性破壊」のリスクが顔を出します。

公的規格では「この温度範囲ならOK」とされていても、私たちはその境界線付近ではより慎重な材料確認を行います。

「規格内だから大丈夫」と過信せず、材料が置かれる過酷な環境を想像する力が求められます。

ステンレス鋼(ASTM A182)の使い分け

腐食が予想される場所ではステンレス鋼が登場します。代表的なのは F304 や F316 ですが、この使い分けを正しく理解していますか?

F316/F316L は、F304 に「モリブデン(Mo)」という元素を添加したものです。これにより、酸や塩化物に対する耐食性がぐっと強くなります。海に近い立地や、腐食性の強い流体を扱うラインでは欠かせません。

ここでさらに重要なのが「Lグレード(低炭素)」の選定です。例えば F304L のように末尾に「L」がつくものは、炭素(C)の含有量を低く抑えています。

なぜこれが必要かというと、溶接の熱によってステンレスの結晶の隙間に腐食が起きる「粒界腐食」を防ぐためです。

現場での溶接修理が発生するプラントメンテナンスにおいて、この「Lグレード」の選定は鉄則中の鉄則といえます。

溶接性を左右する炭素当量の厳格管理

ASTM規格の成分表をクリアしていても、実は「溶接のしやすさ」には差が出ます。そこで私たちは、炭素当量 Ceq という指標を用いて、独自に厳しい上限値(例えば 0.43% 以下)を設定しています。

$$C_{eq} = C + \frac{Mn}{6} + \frac{Cr + Mo + V}{5} + \frac{Ni + Cu}{15}$$

なぜここまでこだわるのか。炭素当量が高いと、溶接した部分が急に冷えたときに硬くなりすぎて、「溶接割れ」を起こしやすくなるからです。

この値を厳しく制限することで、現場での余熱(溶接前に材料を温める作業)の手間を減らしつつ、溶接欠陥のリスクを最小限に抑えています。

図面上の数値だけでなく、現場で溶接棒を握る職人さんの作業性まで考慮するのが、高度な設計指針の思想なのです。

低温用材料と衝撃試験の重み

寒冷な地域や、ガスが気化して急激に冷えるプロセスでは、低温用材料(ASTM A350 LF2等)が使われます。ここでポイントになるのが「低温靭性」、つまり粘り強さです。

私たちは、材料の「粘り」を確認するシャルピー衝撃試験において、公的規格よりも厳しい数値を要求することがあります。試験温度をより低く設定したり、吸収エネルギーの目標を高くしたりするのです。

これは、万が一小さな亀裂が入ったとしても、それが一気に広がって大事故にならないよう、「粘り強く耐えて時間を稼ぐ」ための設計思想です。

材料は硬ければ良いというものではありません。「しなやかさ」こそが安全を支えるのです。

MTC(材料証明書)を「読み解く」力

材料発注の際には必ずMTC要求してください。

MTC:Material Test Certificate、材料試験証明書(いわゆるミルシート)

若手の皆さんは、そこに「PASS」と書いてあるのを見て安心するかもしれません。しかし、一歩先のエンジニアを目指すなら、中身の数値をじっくり見てください。

「炭素当量が 0.43% ギリギリではないか?」

「今回のステンレスのLグレード、炭素量はしっかり抑えられているか?」

書類上の合格不合格だけでなく、その材料が「私たちの理想とする品質のどの位置にいるか」を把握する習慣をつけてください。その積み重ねが、プラントの寿命を延ばし、安全を確実なものにします。